みかんの栽培において、肥料選びは非常に重要なポイントです。特に鶏糞は、窒素やリン酸、カリウムなどの栄養素が豊富に含まれており、果樹栽培に適した有機肥料として知られています。しかし、「みかんを酸っぱくする」という理由で敬遠されることもあり、その使用方法については様々な意見があります。
鶏糞をみかんの肥料として効果的に活用するためには、発酵の状態や施肥時期、適切な使用量など、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。この記事では、みかん栽培における鶏糞の活用方法や、土壌改良効果、他の有機肥料との組み合わせ方などについて、詳しく解説していきます。
この記事のポイント!
- 鶏糞の肥料効果と栄養成分の特徴について
- 発酵鶏糞と未発酵鶏糞の違いと選び方
- みかん栽培における適切な施肥時期と使用量
- 土壌改良効果と微生物活性化のメカニズム
みかんの肥料として鶏糞を使う基本と特徴
- 鶏糞はみかんの肥料として実は使える
- 鶏糞に含まれる主要な栄養成分とその効果
- 鶏糞を使うメリットとデメリット
- 発酵鶏糞と未発酵鶏糞の違いと選び方
- 一般的な化学肥料との効果の違い
- 土壌改良効果と微生物活性の向上
鶏糞はみかんの肥料として実は使える
鶏糞はみかんを酸っぱくすると言われて敬遠されることがありますが、実際には適切に使用すれば効果的な肥料となります。特に発酵鶏糞は、みかんの苗木育成期や樹勢を強くする効果があります。
使用時期としては、夏までには散布を終えることが重要です。これは、実が熟してくる時期に土中のチッ素分が多いと糖度が上がらないためです。
完全発酵させた鶏糞であれば、臭いもほとんどなく、民家への迷惑も最小限に抑えることができます。実際に多くの農家が、レモンや苗木の栽培に鶏糞を活用しています。
窒素の肥効率は約60%で、効果は施用後約1ヶ月程度です。リン酸の肥効率は約80%と高く、可給態リン酸として存在しています。
土壌の窒素状態が安定するまでに1週間程度かかるため、播種・定植の1週間前が散布に適しています。
鶏糞に含まれる主要な栄養成分とその効果
鶏糞には、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの多量要素が含まれています。また、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ホウ素などの微量要素も豊富です。
これらの要素の多くは有機態として含まれており、土壌中で徐々に分解されて作物に利用されます。カリウムは主に無機態として含まれ、速効的に作物に利用されます。
鶏糞が分解される際に発生する炭酸ガスは、作物の光合成を促進する効果があります。また、作物の生育を促進するホルモンやウリカーゼなどの酵素も含まれています。
使用量の目安として、10アール当たり600kgほどの施用が適切とされています。これは慣行農法の半量程度のチッ素量に相当します。
土壌中の有効なミミズなどの小動物や微生物の活性化にも効果があります。
鶏糞を使うメリットとデメリット
メリットとして、鶏糞は土壌の生物性を改善する効果があります。土壌動物の活動が盛んになり、有機物の分解が促進されます。
また、土壌の保肥力を高める効果があり、肥料成分が雨水で流されにくくなります。特に火山灰土壌や酸性土壌では、アルミニウムの害作用を抑える効果も期待できます。
土壌の団粒化を促進し、通気性や保水性を改善する効果もあります。これにより根の伸長が促進され、養分吸収が向上します。
デメリットとしては、未発酵の場合に強い臭いが発生することや、窒素成分が過剰になりやすい点があります。また、施用時期を誤ると果実の品質に影響を与える可能性があります。
価格面では、化学肥料に比べて比較的安価な有機肥料として知られています。
発酵鶏糞と未発酵鶏糞の違いと選び方
発酵鶏糞は、臭いが少なく扱いやすい特徴があります。完全発酵させたものは臭いがほとんどないため、近隣への配慮も容易です。
未発酵の鶏糞は臭いが強く、また肥料効果の発現も遅くなります。特に果実の熟期に近い時期に効き始めると、糖度の上昇を妨げる可能性があります。
粒状の発酵鶏糞製品は、散布が容易で効果も安定しています。ただし、未発酵の安価な製品は臭いが強いため、避けた方が良いでしょう。
成分率は製造元により大きく異なることがありますが、現在は肥料取締法で成分率表示が義務付けられているため、事前に確認が可能です。
使用前には必ず成分含有率を確認し、適切な量を計算して使用することが重要です。
一般的な化学肥料との効果の違い
化学肥料と比較して、鶏糞の最大の特徴は肥効の遅効性です。効果がゆっくりと現れ、土壌中に蓄積された有機物からの養分供給が継続的に行われます。
化学肥料では見られない特徴として、連年施用による累積効果があります。分解されにくい有機物が土壌中に蓄積され、これから供給される養分量は徐々に高まっていきます。
土壌の団粒化を促進する効果も、化学肥料にはない特徴です。団粒化により、土壌が軟らかくなり、根の伸長が促進されます。
また、団粒間の隙間により排水性や通気性が改善され、保水性も維持されます。これにより、作物の養分吸収や水分吸収が促進されます。
化学肥料は即効性がありますが、土壌改良効果は期待できない点が大きな違いといえます。
土壌改良効果と微生物活性の向上
鶏糞を施用すると、土壌中のミミズ、ダニ、トビムシなどの土壌動物の活動が活発になります。これにより、鶏糞が細かく分解され、微生物による分解も促進されます。
土壌微生物の数が増えることで、プライミング効果(起爆剤的効果)が発生し、これまでに蓄積されていた有機物の分解も促進されます。その結果、窒素やリンなど多くの養分が土中に放出されます。
病害虫の抑制効果も報告されており、土壌中の微生物の多様性が高まることで、病害虫の発生が抑制される例が確認されています。例えば、トマト青枯病やキュウリつる割病、ダイコン萎黄病の発生抑制効果が報告されています。
特に、陽イオン交換容量(CEC)が増加することで、土壌の養分保持力が向上します。これにより、アンモニウム、カリ、カルシウム、マグネシウムなどの養分が保持されやすくなります。
このような土壌改良効果は、化学肥料では得られない重要な利点となっています。
みかんの栽培における鶏糞肥料の正しい使い方
- 施肥の適切な時期と回数
- 鶏糞の適切な使用量と与え方
- 樹の生育段階による施肥量の調整方法
- 他の有機肥料との組み合わせ方
- 過剰施肥を防ぐためのポイント
- まとめ:みかんの肥料としての鶏糞活用の基本と注意点
施肥の適切な時期と回数
みかんへの施肥は、春、夏、秋の3回に分けて行うのが一般的です。春肥は2月から3月頃に行い、新芽の発生と開花に向けた準備となります。
夏肥は5月中旬から6月上旬頃に実施します。この時期は窒素成分が多すぎると果実の品質低下につながるため、施肥量の調整が重要です。
秋肥は10月頃、果実の収穫後に行います。この時期の施肥は、樹勢の回復と耐寒性の向上、翌年の発芽と開花の準備のために重要です。
鶏糞の場合、肥効期間は約1ヶ月と比較的短いため、施肥時期の選択が重要になります。特に実が熟してくる時期には窒素分が多すぎると糖度が上がらないため、夏までには施肥を終える必要があります。
土壌の窒素状態が安定するまでに1週間程度かかるため、各施肥のタイミングは定植の1週間前を目安に行います。
鶏糞の適切な使用量と与え方
鶏糞の使用量は、10アール当たり600kg程度が目安となります。これは慣行農法の窒素量の約半分に相当します。
施肥方法としては、一度に全量を施用するのではなく、春に6割、梅雨前に4割というように分けて施用することで、土壌への負担を軽減できます。
家庭での失敗を防ぐため、鶏糞は主幹から1m離して、四か所に山盛りに与えます。これにより、根への負担を軽減することができます。
粒状の高品質な製品を選択することで、未発酵品特有の強い臭いを避けることができます。散布後は土を3cm以上かぶせることで、臭いの発生を防ぐことができます。
施用時は必ず手袋を着用し、シャベルなどの道具を使用することをお勧めします。保管は直射日光を避け、冷暗所で行います。
樹の生育段階による施肥量の調整方法
みかんの木の生育段階によって、必要な施肥量は大きく異なります。1~2年生の若木では成木の3割程度、3~4年生では5割程度が目安となります。
5~8年生の木では成木の7割程度まで増やし、10年目でようやく成木と同量の施肥が可能になります。若木への過剰な施肥は生育不良を招く可能性があるため、注意が必要です。
成木の場合、窒素、リン酸、カリウムがそれぞれ8:8:8の配合肥料を年間3~4キロ程度与えます。これは4m×4m植えで10a当たり約60本植えの場合の目安です。
春肥で2キロ、夏肥で1キロ、秋肥で1キロという配分が一般的です。ただし、樹の状態や生育状況によって適宜調整が必要です。
施肥量は樹冠の大きさや結実量によっても変わってくるため、常に樹の状態を観察しながら調整を行います。
他の有機肥料との組み合わせ方
鶏糞は、ナタネ油粕と組み合わせることで、より効果的な施肥が可能です。例えば10アールあたり、ナタネ油粕120kg(6袋)と発酵鶏糞90kg(6袋)の組み合わせが推奨されています。
この組み合わせにより、チッ素換算では8.6kg/10アールと少なめになりますが、土壌微生物の働きや菌根の共生による養分の吸収メカニズムにより、十分な効果が得られます。
油粕は高額ですが、作業労力の軽減が図れるメリットがあります。2月に一括して散布することで、年間の施肥作業を効率化できます。
組み合わせる肥料の選択には、古くからの経験則も参考になります。特に油粕については、地域の古老の知恵を活用することで、より適切な施用量を決定できます。
ただし、肥料の組み合わせを変更する際は、それまでの施肥内容から段階的に移行することが望ましいです。
過剰施肥を防ぐためのポイント
過剰な窒素施用は、果実の品質低下を招く可能性があります。窒素は植物の吸収量が供給量に応じて増加するため、特に注意が必要です。
リン酸の過剰施用は、微量要素の吸収を阻害し、亜鉛や鉄の不足を引き起こす可能性があります。適切な量を守ることが重要です。
カリウムを過剰に与えると、マグネシウムの吸収が減少し、タンパク質の合成に支障をきたす恐れがあります。バランスの取れた施肥が重要です。
施肥量の調整は、樹や土壌の状態を見ながら行う必要があります。特に若木への施肥は、成木よりも少なめにすることが重要です。
肥料の種類や施用時期によって効果が異なるため、計画的な施肥管理が必要です。
まとめ:みかんの肥料としての鶏糞活用の基本と注意点
最後に記事のポイントをまとめます。
- 鶏糞はみかんの肥料として適しており、完全発酵品なら酸味への影響は少ない
- 窒素の肥効率は約60%で、効果は約1ヶ月間持続する
- リン酸の肥効率は約80%で、可給態として存在する
- 施肥は春夏秋の3回に分けて実施する
- 夏までには施肥を終える必要がある
- 10アール当たりの標準使用量は600kg程度
- 若木は成木の3〜7割程度の施肥量とする
- 油粕との併用で効果的な施肥が可能
- 過剰施肥は果実品質の低下を招く
- 粒状の高品質品を選択することで臭いを抑制できる
- 土壌の生物性を改善し、病害虫の抑制効果がある
- 施用後は3cm以上の覆土が必要