胡蝶蘭の花芽が枝分かれすることは珍しい現象ではありません。健康な株では、葉の間から複数の花芽が出てきたり、1本の花茎から枝分かれして新しい花芽が伸びてきたりすることがあります。この現象は株が十分な栄養を蓄えている証拠でもあります。
しかし、枝分かれした花芽をすべて育てることは株への負担となる可能性があります。特に大輪系の胡蝶蘭では、花を咲かせるためのエネルギーが分散されてしまい、十分な大きさの花を咲かせられなくなることもあるのです。そのため、枝分かれした花芽の扱い方を知ることは、美しい胡蝶蘭を育てる上で重要なポイントとなります。
記事のポイント!
- 胡蝶蘭の花芽が枝分かれする原因と仕組み
- 枝分かれした花芽の適切な間引き方法
- 花芽と根の見分け方と管理方法
- 花芽が枝分かれした後の育て方と注意点
胡蝶蘭の花芽が枝分かれする原因と対処方法を詳しく解説
- 花芽の枝分かれは株の健康状態のバロメーター
- 花芽が複数出現するメカニズムと自然な生育過程
- 枝分かれした花芽の間引きは必要か判断基準
- 間引く場合の適切な本数と選び方
- 根と花芽の正しい見分け方と判断のポイント
- 花芽誘導のコツと支柱の立て方
花芽の枝分かれは株の健康状態のバロメーター
胡蝶蘭の花芽は、葉と茎の間を割って生えてきます。1枚の葉につき1本の花芽が出てくる可能性があり、しっかりと成長した葉の枚数が多いほど、花芽がいくつも出てくる可能性が高くなります。
花芽が複数出てくることは、株が十分な栄養を蓄えている証拠です。特に葉が3枚以上あり、それぞれが健康的な状態である場合に、複数の花芽が出現しやすくなります。
生育環境が良好で株が元気な場合、1本の花茎から枝分かれして新しい花芽が伸びてくることもあります。これは胡蝶蘭の自然な生育の一つの形です。
販売されている胡蝶蘭では、お花を充実させるために1株から伸ばす花茎は1本だけにしていることが多いですが、ミディ系胡蝶蘭など花が小さく咲かせやすい品種では、1株から花茎を3~4本伸ばしている場合もあります。
株の状態が良好な場合、切った下の節目から新しく花芽が生えてきて、花をつけてくれる可能性もあります。これを二番花と呼び、咲くまでには3~5ヶ月ほどかかります。
花芽が複数出現するメカニズムと自然な生育過程
胡蝶蘭の花芽は、上から2枚目の葉の付け根あたりから、または3~4節のこした場合にはカットしたすぐ下の節目から生えてきます。寒い時期には成長を休止しますが、暖かくなってどんどん成長するようになります。
生命力の強い胡蝶蘭は、一度すべての花が落ちてしまっても、適切に管理し育てることで、また花を咲かせてくれることがあります。特に株が充実していないと枝分かれしないため、枝分かれが起こるということは、その株が健康的に育っていることを示しています。
花茎は生育条件によって1株につき1本~数本伸びてきますが、条件が悪いと1本も生えてこない事があります。そのため、次の花を咲かせるためには生育環境に注意して育てる必要があります。
元気な胡蝶蘭なら、複数または1本から枝分かれした花芽のすべてが成長して花をつける可能性もありますが、株にとっては負担となります。なかには、複数の花芽を保つことができず枯れてしまう株もあります。
花芽が出る時期は、最低温度が18℃前後まで下がり、日照も短くなってくることで来年に咲く花芽が出てきます。普通の環境では11月~12月頃花芽を出して、翌年の3月~4月頃に咲くことが多くなります。
枝分かれした花芽の間引きは必要か判断基準
枝分かれした花芽をすべて育てることは、株への大きな負担となります。特に大輪系の胡蝶蘭では、花を咲かせる際に多くのエネルギーを必要とします。
例えば4つの花芽が出た場合、花を咲かせるための体力を仮に「100」とすると、4本すべての花茎を伸ばして花を咲かせたら、花茎1本あたりに使われる力は100÷4=「25」となります。この場合、それぞれの花が小さくなったり、花数が少なくなったりする可能性があります。
確実に花を咲かせたい場合は花芽を切って間引き、1本だけにして育てた方が良いでしょう。特に大輪系の場合は間引く方が良く、その理由は胡蝶蘭により多くの花を咲かせてもらうためです。
もし4つ出た花芽のうち2つ間引いたら花茎1本あたり「50」、3つ間引いて花茎を1本だけ伸ばしたら「100」すべての力がその1本に注がれることになります。このように、花茎に注がれる力が大きいほどお花をたくさん咲かせてくれることが期待できます。
販売されている胡蝶蘭も花茎を1本だけ伸ばしてたくさん花を咲かせた株を、3株や5株寄せ植えにしてあるのはこのためです。ただし、花径の小ぶりなミディ系胡蝶蘭など品種によっては花茎の本数が多くても、それぞれの花茎に花をたくさん咲かせてくれる種類もあります。
間引く場合の適切な本数と選び方
胡蝶蘭の花芽を間引く時期は、花茎が伸びきってからでは体力が消費されてしまうため、小さいうちに切るようにします。基本的には葉っぱの枚数と相談しながら判断していきます。
大きく育った健康な株であれば、3本までの花芽を残すことができます。ただし、これは葉の状態を見て判断する必要があります。葉っぱの量に対して判断するのが基本で、最低でも3枚の葉が必要とされています。
残す花芽を選ぶ際は、より太くしっかりとした芽を選びます。また、残す本数は株の大きさや状態によって変えていく必要があります。葉の枚数が少ない場合は1本に絞るなど、状況に応じて調整します。
花芽の間引きは、切る時には支柱は外し、園芸用のハサミで根元から切り取ります。その際、ハサミは消毒してから使用します。消毒方法としては、園芸用の消毒薬を使う方法や、ライターやコンロの火でハサミを焙って熱消毒する方法があります。
切る際は思い切ってスパッと切るようにしてください。断面を綺麗に切ることで周辺の組織が痛んでしまうことを防ぐことが出来ます。中途半端に切ると、そこまでエネルギーが行ってしまう可能性があります。
根と花芽の正しい見分け方と判断のポイント
花芽は、葉の間から上向きに生えます。見た目は小さいながら、のちに節になる部分が徐々に現れてきます。一方、根は主に葉の側面から出ますが、花芽のように葉の間から出てくる場合もあります。
根の先端には緑や赤い半透明のルートキャップ(根冠)と呼ばれる部分があり、胡蝶蘭の根は花茎よりも太くなります。また、根が伸びる方向は下だけでなく、生育環境によって上や鉢の外へ伸びる場合があります。
見分けるポイントとして、花芽の場合は上に向かって伸び、根は様々な方向に伸びていきます。また、根は花芽に比べて太く、先端部分の特徴的な形状で判別することができます。
花芽と根には特徴があるため、花芽を間引く際に誤って根を切ってしまわないためにも、花芽・根を少し成長させて違いがはっきりしてから切るようにします。判断に迷う場合は、成長を待って特徴がはっきりしてから対処するのが安全です。
胡蝶蘭は着生植物なので、根が様々な方向に伸びるのは自然な成長の一部です。これは、胡蝶蘭の原種が樹上で育つ着生植物であることに由来するため、生育上問題はありません。
花芽誘導のコツと支柱の立て方
花芽がある程度伸びてきたら、支柱を立てて専用のクリップやビニールコーティングされた針金で茎を固定します。大輪なら30㎝程度、中輪・小輪なら5~10㎝くらいまで伸びたところで支柱を立てます。
固定する際は茎が傷ついたり折れたりしないよう、すこしずつ慎重に、支柱の方へと曲げていきます。胡蝶蘭の花茎は日光の方へ伸びる習性があるので、これを利用し鉢を回して日光の当たる方向を調整しながら支柱への固定をすすめるとうまくいきます。
上に向かって伸びてくる花茎は、花が咲くと花の重みで垂れ下がります。原種の胡蝶蘭は樹上の高い位置に着生しており、花が垂れ下がっても地面に着くことが無いため問題ありません。
鉢植えの場合は、ハンギング(宙づり)で育てる場合を除き机の上や床に置いて飾るため、支柱を使って花茎を立たせ胡蝶蘭の花が枝垂れても下に着かないように仕立てます。見栄えも良くなるため、売られている胡蝶蘭のほとんどに支柱が使われています。
個人で胡蝶蘭を育てる場合でも、飾る場所や見栄えを考えて必要であれば支柱を使いましょう。
胡蝶蘭の花芽枝分かれ後の育て方と開花までの管理
- 枝分かれ後の水やりと温度管理の重要性
- 肥料の与え方と適切な時期
- 二番花を咲かせるための花茎の切り方
- 開花までの期間と環境整備のポイント
- 高芽が発生した場合の対処方法
- まとめ:胡蝶蘭の花芽枝分かれを活かした育て方のコツ
枝分かれ後の水やりと温度管理の重要性
胡蝶蘭は15~35℃の環境で育てる必要があります。特に15℃を下回ると枯れてしまう可能性が高く、寒さに弱い特徴があります。そのため、冬場は特に気温管理に注意が必要となります。
水やりは、水苔など植えてある素材が乾いたら行います。特に冬期は乾燥ぎみにすることが推奨されています。また、空中湿度を保つために時々霧吹きをするのも効果的な方法です。
屋内・屋外のどちらでも育てることができますが、気温が15℃以下になる冬場は必ず屋内で管理しましょう。置き場所は直射日光を避け、明るい場所を選びます。
日照条件は50〜60%程度の遮光率が好ましいとされています。カーテン越しの光が当たる窓辺などが理想的な環境となります。
温度と湿度の管理が適切でないと、せっかくの花芽が枯れてしまう可能性もあります。特に蕾の状態で茶色く枯れてしまう場合は、温度や湿度など生育環境に問題がある可能性が高いです。
肥料の与え方と適切な時期
胡蝶蘭への肥料は、5月末〜11月始めくらいまでの期間に週1回程度与えます。液肥を使用する場合は、通常の1000倍に薄めて使うものを2000~3000倍くらいにまで薄めて使用します。
胡蝶蘭はもともと栄養分の少ない樹上で生育している植物のため、濃い肥料を嫌います。与えすぎは逆効果となる可能性があるので、薄めて与えることが重要です。
花芽が出ている時期の窒素肥料の与えすぎは、花芽が高芽になってしまう原因となることがあります。高芽とは、花が付くはずの場所に葉や根が出てきて小さな株ができた状態を指します。
株を休ませ、次の開花に向けて体力を蓄えさせる時期は、肥料を控えめにします。特に花が終わって間もない時期は、植物体が休息を必要としている時期です。
肥料を与える際は、葉水と同様に鉢底から流れ出るほどたっぷりと与えることで、肥料焼けを防ぎながら必要な栄養を行き渡らせることができます。
二番花を咲かせるための花茎の切り方
二番花を咲かせたい場合は、根元から数えて2~3節残し、その上部を切ります。切った場所のすぐ下の節から新たに花芽が伸びてきて、二番花を咲かせてくれる可能性があります。
切る際は園芸用のハサミを使用し、必ず消毒をしてから作業を行います。切り口は斜めではなくまっすぐに切ることで、傷口からの感染を防ぐことができます。
ただし、二番花を咲かせることは株への負担となります。十分に育っているタフな株であれば次のシーズンにすぐ花芽を出してくれる可能性はありますが、体力が消耗している株では難しい場合があります。
花茎を切ってから胡蝶蘭の二番花が咲くまでは3~5ヶ月ほどかかります。この間、適切な環境で管理を続けることが重要です。
二番花を咲かせた後も胡蝶蘭の株を育て続けたい場合は、花が咲き終わったら花茎を根元近くで切り、再び株を休ませる期間を設けます。
開花までの期間と環境整備のポイント
胡蝶蘭の開花までの期間は、花芽が出てから通常3~5ヶ月程度かかります。この間、温度管理と水やりを適切に行うことが重要です。
花芽の成長中は、伸びてきた花茎を守るために葉・茎・根の色や質感、においなどを定期的に観察します。異常が見られた場合は、早めに対処することが大切です。
胡蝶蘭の花茎は日光の方へ伸びる特性があります。この性質を利用して、鉢を回転させることで自然な形に花茎を誘導することができます。
花芽の成長期には、アリやナメクジなどの害虫被害にも注意が必要です。また、病気の予防のため、風通しの良い環境を保つことも重要なポイントとなります。
開花直前の蕾の時期は特に注意が必要で、環境の変化に敏感です。この時期に蕾が落ちてしまうこともあるため、置き場所を急に変えるなどの環境変化は避けましょう。
高芽が発生した場合の対処方法
高芽は花が付くはずの場所に葉や根が出てきて小さな株ができた状態です。二番花を咲かせるために花茎を高い位置で切り、夏の高温期に育てた場合などに発生しやすい傾向があります。
植え替え後の成長期に花芽が出た場合や、窒素肥料が多い場合、花茎が出ている時に成長点である親株先端の頂芽がダメになった場合などにも高芽になる可能性があります。
高芽の葉や根がしっかり生えてくれば、花茎から切り離して株分けすることができます。これは胡蝶蘭を増やす機会ととらえることもできます。
花が咲かなかったことは残念ですが、高芽は新しい株として育てることができます。ただし、高芽を育てる場合も適切な環境と管理が必要となります。
高芽の発生を防ぐためには、適切な温度管理と肥料管理が重要です。特に生育環境の急激な変化は避けるようにしましょう。
まとめ:胡蝶蘭の花芽枝分かれを活かした育て方のコツ
最後に記事のポイントをまとめます。
- 花芽の枝分かれは株が健康で十分な栄養を持っている証拠である
- 大輪系の胡蝶蘭は1株につき1本の花茎に絞ることで、より豪華な花を咲かせることができる
- 花芽と根の見分けは、生える方向と形状の違いで判断できる
- 温度管理は15~35℃の範囲を保つことが重要
- 水やりは植え込み材が乾いてから行い、冬期は控えめにする
- 肥料は5月末~11月初めの期間に週1回、薄めて与える
- 二番花を咲かせる場合は2~3節を残して切る
- 花芽の間引きは小さいうちに行うのが効果的
- 支柱は30cm程度(大輪)または5~10cm(小輪)の長さで花茎を誘導する
- 高芽は株分けのチャンスととらえることができる
- 冬場は必ず室内での管理が必要
- 直射日光は避け、50~60%程度の遮光が理想的