草刈機のエンジンがかからない、火花が飛ばないといったトラブルに直面したとき、多くの場合イグニッションコイルの不調が原因となっています。イグニッションコイルは、バッテリーからの12Vを20,000~35,000Vもの高電圧に変換してスパークプラグに供給する重要な部品です。このコイルが故障すると、エンジンの始動不良や走行中の不調、完全な始動不能といった深刻な症状が現れます。
特に草刈機は屋外での使用により汚れや湿気にさらされやすく、またエンジンの発熱や振動によってイグニッションコイルの劣化が進みやすい環境にあります。しかし、適切な点検方法を知っていれば、テスターを使った抵抗値測定やマグネトローターとの隙間調整により、故障の原因を正確に特定することができます。本記事では、共立・マキタ・ゼノアなど主要メーカーの草刈機に対応した実践的な点検手順から、交換時期の見極め方、修理費用の目安まで詳しく解説していきます。
この記事のポイント |
---|
✓ テスターを使った正確な抵抗値測定方法がわかる |
✓ マグネトローターとの適正隙間(0.1〜0.3mm)の調整手順を習得できる |
✓ 一次コイル・二次コイルそれぞれの故障診断方法を理解できる |
✓ 交換費用の相場と各メーカーの互換性情報を把握できる |
草刈機イグニッションコイル点検方法の基本と症状の見極め
- 草刈機のイグニッションコイル点検は抵抗値測定とギャップ調整から始める
- 火花が飛ばない症状は段階的にチェックして原因を特定する
- テスターによる抵抗値測定は一次側・二次側それぞれで行う
- マグネトローターとの隙間は0.1〜0.3mmが適正値
- プラグキャップとプラグコードの接触不良も要チェック
- エンジンが温まった時の再始動不良は熱膨張による接触不良
草刈機のイグニッションコイル点検は抵抗値測定とギャップ調整から始める
草刈機のイグニッションコイル点検において最も重要なのは、テスターを使った抵抗値測定とマグネトローターとのギャップ調整です。この2つの基本的な点検作業により、イグニッションコイルの良否を正確に判断することができます。
イグニッションコイルは一次コイルと二次コイルという2つの巻線で構成されており、それぞれ異なる抵抗値を持っています。一次コイルは太い電線を100~200回巻いたもので、抵抗値は通常0.1~2Ω程度です。一方、二次コイルは細い電線を10,000~20,000回巻いたもので、抵抗値は5,000~15,000Ω程度と大きくなります。
🔧 基本点検項目一覧
点検項目 | 正常値 | 異常時の症状 |
---|---|---|
一次コイル抵抗値 | 0.1~2Ω | 無限大または0Ω |
二次コイル抵抗値 | 5,000~15,000Ω | 規定値から大幅逸脱 |
マグネトギャップ | 0.1~0.3mm | 火花が弱い・出ない |
プラグコード導通 | 連続性あり | 断線・接触不良 |
マグネトローターとイグニッションコイルの隙間調整は、**シックネスゲージ(隙間ゲージ)**を使用して行います。この隙間が適正でないと、磁力が十分に伝わらず火花が弱くなったり、全く出なくなったりします。隙間が狭すぎると接触によりコイルが損傷し、広すぎると磁束密度が低下して点火性能が劣化します。
点検作業を行う際は、必ずエンジンを停止し、プラグコードを外してから作業を開始してください。また、テスターは抵抗値測定機能があるデジタルマルチテスターを使用することで、より正確な測定が可能になります。測定時は端子の汚れを清拭し、確実に接触させることが重要です。
実際の修理現場では、「プラグから火花は出ているが弱い」「エンジンが冷えている時は始動するが温まると再始動できない」といった症状が多く見られます。これらの症状は、イグニッションコイルの微細な劣化や接触不良が原因となることが多く、基本的な点検手順を踏むことで確実に原因を特定できます。
火花が飛ばない症状は段階的にチェックして原因を特定する
草刈機のプラグから火花が飛ばない場合、段階的な診断アプローチにより原因を効率的に特定することができます。いきなりイグニッションコイルの交換を検討するのではなく、簡単な部分から順番にチェックしていくことで、無駄な部品交換を避けることができます。
最初に確認すべきはストップスイッチの状態です。ストップスイッチが故障していると、常時アースされた状態になりイグニッションコイルに電流が流れません。ストップスイッチの配線を一旦外して火花が出るかどうかを確認することで、スイッチ系統の不具合を除外できます。
⚡ 段階的診断チェックリスト
チェック順序 | 確認項目 | 対処方法 |
---|---|---|
1 | ストップスイッチ配線 | 配線を外して点火テスト |
2 | プラグキャップの接触 | 清掃・締め付け確認 |
3 | プラグ本体の状態 | 新品プラグで再テスト |
4 | プラグコードの導通 | テスターで連続性確認 |
5 | コイル隙間調整 | 0.1~0.3mmに調整 |
6 | コイル抵抗値測定 | 規定値との比較 |
次にプラグキャップ内部の接触状態を確認します。プラグキャップ内には螺旋状のスプリング端子が内蔵されており、これが経年劣化で接触不良を起こすことがあります。特にエンジンが温まると熱膨張により接触が悪くなり、冷間時は正常だが温間時に始動不良を起こすという症状が現れます。
プラグ本体の状態確認も重要です。カーボンの堆積やギャップの異常、電極の摩耗などによりプラグ自体が不良となっている場合があります。新品のプラグに交換して症状が改善するかどうかを確認することで、プラグ起因の問題を除外できます。
プラグコードの導通チェックでは、テスターを使用してプラグキャップからイグニッションコイルまでの連続性を確認します。特に可動部分やエンジンの振動により断線が生じやすい箇所があるため、コードを軽く動かしながら測定することで間欠的な断線も発見できます。
これらの基本的なチェックを行っても火花が出ない場合、いよいよイグニッションコイル本体の不良が疑われます。しかし、段階的な診断により他の原因を除外しておくことで、確信を持ってコイル交換に踏み切ることができ、修理の成功率が格段に向上します。
テスターによる抵抗値測定は一次側・二次側それぞれで行う
イグニッションコイルの抵抗値測定は、一次側(プライマリ)と二次側(セカンダリ)を分けて実施することが診断精度向上の鍵となります。それぞれの回路は異なる役割を持ち、故障モードも異なるため、個別の測定により具体的な故障箇所を特定できます。
一次側の測定では、バッテリーからの12V電源を受け取る回路の状態を確認します。測定点は、イグニッションコイルの一次端子(通常は小さな端子)とアース(エンジン本体の金属部分)の間です。正常な一次コイルの抵抗値は0.1~2Ω程度で、この値から大きく外れる場合は一次コイルの断線またはショートが疑われます。
📊 コイル抵抗値測定データ
測定箇所 | 正常値 | 異常値の例 | 推定される故障 |
---|---|---|---|
一次コイル | 0.1~2Ω | 無限大 | 一次コイル断線 |
一次コイル | 0.1~2Ω | 0Ω | 一次コイルショート |
二次コイル | 5,000~15,000Ω | 無限大 | 二次コイル断線 |
二次コイル | 5,000~15,000Ω | 2,000Ω以下 | 二次コイル劣化 |
二次側の測定では、高電圧を発生する回路の健全性を確認します。測定点は、プラグキャップ(またはプラグコード)とアース間です。二次コイルは細い電線を数万回巻いた構造のため、抵抗値は5,000~15,000Ωと高くなります。この値が無限大を示す場合は断線、極端に低い場合は絶縁不良やショートが考えられます。
測定時の注意点として、テスターのレンジ設定が重要です。一次側測定では低抵抗レンジ(1Ω~10Ω)、二次側測定では高抵抗レンジ(10kΩ~100kΩ)を使用します。また、測定前には端子の清掃を行い、酸化皮膜や汚れによる接触不良を防ぐことが正確な測定のために不可欠です。
温度による抵抗値変化も考慮すべき要素です。イグニッションコイルは銅線で巻かれているため、温度上昇により抵抗値が増加します。冷間時と温間時で測定値を比較することで、熱による特性変化を把握でき、「冷間時は正常だが温間時に不調」という症状の原因解明に役立ちます。
実際の修理現場では、「テスターで導通があるのに火花が出ない」というケースもあります。これは、静的な抵抗値は正常でも、高周波の電気信号に対する特性が劣化している場合があるためです。このような場合は、抵抗値測定に加えて実際の点火テストを併用することで、より確実な診断が可能になります。
マグネトローターとの隙間は0.1〜0.3mmが適正値
イグニッションコイルとマグネトローター(フライホイール)の間の隙間は、点火性能に直結する重要な調整項目です。この隙間が適正値から外れると、磁束密度の変化により発生電圧が不足し、火花が弱くなったり全く出なくなったりします。
適正な隙間は機種により多少異なりますが、一般的には0.1mm~0.3mmの範囲に調整します。隙間の測定と調整には、シックネスゲージ(隙間ゲージ)と呼ばれる薄い金属板を使用します。名刺1枚の厚さが約0.2mmなので、応急的には名刺を使用することも可能ですが、正確な調整のためには専用のゲージを使用することをお勧めします。
🔧 隙間調整の手順と注意点
調整手順 | 作業内容 | 注意事項 |
---|---|---|
1 | エンジンカバー取り外し | ボルトの紛失に注意 |
2 | マグネトローターを最接近位置に | 手動でゆっくり回転 |
3 | シックネスゲージで隙間確認 | 軽く挟まる程度 |
4 | コイル固定ボルトを緩める | 完全に外さない |
5 | 隙間調整してボルト締付け | 規定トルクで締付け |
6 | 全周で隙間確認 | ローター1回転で測定 |
隙間調整の際は、マグネトローターを手動で回転させながら、最も接近する位置でシックネスゲージを当てることが重要です。ローターが偏心していたり、コイルの取り付け位置にずれがある場合、回転角度により隙間が変化することがあるためです。
隙間が狭すぎる場合(0.1mm未満)、ローター回転時にコイルと接触してコイル表面が削れたり、最悪の場合はコイルが破損する可能性があります。一方、隙間が広すぎる場合(0.5mm以上)は磁束密度が低下し、発生電圧が不足して点火不良を起こします。
環境要因による隙間変化も考慮する必要があります。エンジンの熱膨張により、運転時は隙間が若干狭くなる傾向があります。また、長期間の振動により取り付けボルトが緩み、隙間が変化することもあります。定期的な点検により、適正な隙間が維持されているかを確認することが重要です。
修理実例として、「新しいイグニッションコイルに交換したのに火花が出ない」というケースでは、隙間調整不良が原因であることが多く見られます。部品交換時は必ず隙間調整を行い、調整後は実際にエンジンを始動させて点火性能を確認することで、確実な修理を完了できます。
プラグキャップとプラグコードの接触不良も要チェック
イグニッションコイルからプラグまでの電気経路において、プラグキャップとプラグコードの接触不良は見落とされがちですが、点火不良の重要な原因となります。特に経年劣化や熱による影響で接触抵抗が増加し、十分な電圧がプラグに到達しないケースが多く見られます。
プラグキャップ内部には、プラグの中心電極と接触するための螺旋状のスプリング端子が組み込まれています。このスプリングが腐食や変形、異物の付着により接触不良を起こすと、火花が出なくなったり不安定になったりします。また、プラグキャップとプラグコードの接続部分も、振動や熱により緩みや劣化が生じやすい箇所です。
🔍 プラグキャップ・コード点検項目
点検箇所 | 確認内容 | 対処方法 |
---|---|---|
キャップ内スプリング端子 | 腐食・変形・異物付着 | 清掃・交換 |
コード接続部 | 緩み・断線・劣化 | 再接続・交換 |
コード全体 | 外皮の亀裂・硬化 | 絶縁テープ補修・交換 |
端子金具 | 腐食・摩耗 | 研磨・交換 |
点検方法としては、まずプラグキャップを取り外し、内部のスプリング端子の状態を目視確認します。腐食が見られる場合は、細かいサンドペーパーで軽く研磨するか、接点復活剤を使用して清掃します。スプリングの弾力が失われている場合は、キャップ全体の交換が必要です。
プラグコードの導通チェックでは、テスターの抵抗測定機能を使用します。正常なプラグコードの抵抗値は1,000~10,000Ω程度で、無限大を示す場合は断線、極端に低い場合は絶縁不良が疑われます。測定時はコードを軽く曲げながら行うことで、間欠的な断線も発見できます。
温度による接触抵抗の変化も重要な要素です。エンジンが冷えている時は正常に接触していても、熱膨張により接触が悪くなるケースがあります。この症状は「冷間始動は問題ないが、温間再始動で不調」という形で現れることが多く、プラグキャップ周辺の点検で原因を特定できることがあります。
実際の修理事例では、イグニッションコイル本体は正常なのに、プラグキャップの交換だけで症状が改善したケースも多く報告されています。プラグキャップは比較的安価な部品(1,000円程度)なので、疑いがある場合は積極的に交換することで、効率的なトラブル解決が可能です。
エンジンが温まった時の再始動不良は熱膨張による接触不良
草刈機のトラブルでよく見られる症状の一つが、**「冷間時は正常に始動するが、エンジンが温まった後の再始動で不調になる」**という現象です。この症状は、熱膨張による接触不良や電気特性の変化が原因となることが多く、適切な診断により確実に原因を特定できます。
熱による影響を最も受けやすいのが、プラグキャップ内部の接触部分です。金属は熱により膨張するため、冷間時には適正だった接触圧が、エンジンの熱により変化します。特に螺旋状のスプリング端子は、材質や設計により熱膨張係数が異なり、温度上昇により接触不良を起こしやすい構造です。
🌡️ 熱による影響と対策一覧
影響を受ける部位 | 熱による変化 | 症状 | 対策 |
---|---|---|---|
プラグキャップ | 接触圧低下 | 間欠的点火不良 | キャップ交換 |
プラグコード | 絶縁性能低下 | 漏電・火花減衰 | コード交換 |
イグニッションコイル | 内部抵抗増加 | 発生電圧低下 | コイル交換 |
端子接続部 | 熱膨張による緩み | 接触抵抗増加 | 再締付・接点復活 |
イグニッションコイル本体も、内部の巻線が熱により抵抗値が増加し、発生電圧が低下する傾向があります。健全なコイルであれば、この変化は許容範囲内に収まりますが、経年劣化により絶縁性能が低下している場合、熱により著しい性能低下を起こすことがあります。
診断方法としては、冷間時と温間時の両方で点火テストを実施することが有効です。エンジンを十分に暖機した直後にエンジンを停止し、すぐに点火テストを行って火花の状態を確認します。冷間時と比較して明らかに火花が弱い場合は、熱による影響が疑われます。
また、温度センサー付きのテスターを使用することで、コイル温度と抵抗値の関係を定量的に把握できます。一般的に銅線の抵抗値は温度上昇により約0.4%/℃の割合で増加するため、この値から大きく外れる場合は異常と判断できます。
実際の修理現場では、このような症状に対してプラグキャップとプラグコードを同時に交換することで改善するケースが多く見られます。両部品とも比較的安価なので、疑いがある場合は予防的に交換することで、確実なトラブル解決が可能になります。修理後は必ず温間テストを実施し、症状の再発がないことを確認することが重要です。
草刈機イグニッションコイル点検方法を実践する交換・修理手順
- イグニッションコイルの交換費用は5000〜15000円程度
- 共立・マキタ・ゼノアなど各メーカーの互換性は限定的
- CDI方式とポイント式では構造と点検方法が異なる
- 一次コイルと二次コイルの故障原因は経年劣化と熱による影響
- プラグから火花が出ても弱い場合はコイル内部の劣化が原因
- 修理か交換かの判断は症状と機械の年式で決める
- まとめ:草刈機イグニッションコイル点検方法で確実な診断を
イグニッションコイルの交換費用は5000〜15000円程度
草刈機のイグニッションコイル交換における費用は、機種やメーカーにより大きく異なり、おおむね5,000円から15,000円程度が相場となっています。純正部品と社外品、新品と中古品の選択により価格に大きな差が生じるため、機械の年式や今後の使用予定を考慮して適切な選択をすることが重要です。
純正部品の場合、メーカーの部品供給体制により価格が決まります。共立(エコー)の場合、比較的新しい機種では8,000円~12,000円程度、マキタでは6,000円~10,000円程度が一般的な価格帯です。一方、古い機種や生産終了モデルでは部品の入手が困難になり、入手できても高額になる傾向があります。
💰 イグニッションコイル交換費用比較表
部品種類 | 価格帯 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
純正新品 | 8,000~15,000円 | 確実な適合・品質保証 | 高価・入手困難な場合あり |
社外新品 | 3,000~8,000円 | 安価・入手しやすい | 品質にばらつき・適合性 |
純正中古 | 2,000~5,000円 | 純正品質・価格抑制 | 耐久性・保証なし |
社外中古 | 1,000~3,000円 | 最安価・試験的使用可 | 品質不明・短期間使用 |
社外品の選択では、中国製の汎用イグニッションコイルが3,000円~5,000円程度で入手できます。ただし、取り付けステーの形状や配線の長さが純正と異なる場合があり、加工や調整が必要になることがあります。品質面でも純正品と比較してばらつきがあるため、重要な作業での使用には注意が必要です。
修理工賃を含めた総費用では、一般的な農機具店での作業で部品代+3,000円~5,000円程度が相場です。診断料、分解・組立て費用、動作確認費用などが含まれます。自分で作業を行う場合は、特殊工具(シックネスゲージなど)の購入費用も考慮する必要があります。
コストパフォーマンスを考慮した選択指針として、機械の購入時期が5年以内で今後も長期使用予定の場合は純正品、10年以上経過している機械や使用頻度が低い場合は社外品という判断が一般的です。また、応急修理として中古品を使用し、様子を見てから新品に交換するという段階的なアプローチも有効です。
実際の修理事例では、社外品のイグニッションコイルでも適切に調整すれば純正品と同等の性能を発揮するケースが多く報告されています。重要なのは、部品交換後の隙間調整と動作確認を確実に実施することで、部品の品質による差を最小限に抑えることができます。
共立・マキタ・ゼノアなど各メーカーの互換性は限定的
草刈機のイグニッションコイルにおいて、メーカー間の互換性は基本的に限定的であり、安易な流用は避けるべきです。各メーカーは独自の設計思想により、取り付け方法、配線仕様、電気特性を決めているため、外観が似ていても完全な互換性を持つことは稀です。
共立(エコー)製品の場合、比較的統一された設計が採用されており、同一シリーズ内での互換性は高い傾向があります。例えば、SRM-2620とSRM-2621のように型番が近い機種では、イグニッションコイルの共用が可能な場合があります。ただし、年式により細部の仕様変更があるため、部品番号での確認が必要です。
🔄 メーカー別互換性情報
メーカー | 互換性の特徴 | 注意点 |
---|---|---|
共立(エコー) | 同シリーズ内で高い互換性 | 年式による仕様変更あり |
マキタ | 比較的独自性が強い | 専用設計が多い |
ゼノア | ハスクバーナとの共通点あり | 取り付け方法に差異 |
ホンダ | 汎用エンジンで互換性あり | エンジン型式で判断 |
丸山 | 廉価版と上位版で互換性低 | 部品展開の違いに注意 |
マキタ製品では、独自の設計思想により他メーカーとの互換性は低い傾向があります。特に電動工具で培った技術を応用した独特な構造を持つため、純正部品または専用設計の社外品を使用することが確実です。ただし、同一エンジンを使用している機種間では互換性があります。
ゼノア製品の場合、ハスクバーナと技術提携している背景があり、一部の機種で共通部品が使用されています。ただし、取り付けステーの形状や配線の仕様が異なる場合があるため、単純な流用は困難です。部品番号での確認と、必要に応じた加工が前提となります。
社外品メーカーの汎用品を使用する場合、複数のメーカーに対応した製品が販売されています。これらの製品では、取り付けステーを加工したり、配線を延長したりすることで適合させることが可能です。ただし、電気特性(抵抗値、発生電圧など)が純正と異なる場合があるため、十分な確認が必要です。
実際の修理現場では、エンジン型式による判断が最も確実とされています。同じエンジンを搭載している異なるメーカーの機種では、イグニッションコイルの互換性が高いことが多く見られます。例えば、小型2ストロークエンジンを搭載した機種では、エンジンメーカーが同じ場合に互換性があることがあります。
部品選択の際は、機械の型式だけでなくエンジンの型式、製造年、シリアル番号を確認し、専門店に相談することで確実な適合部品を入手できます。安価な理由で適合しない部品を使用すると、かえって修理費用が高額になる可能性があるため、慎重な選択が重要です。
CDI方式とポイント式では構造と点検方法が異なる
草刈機の点火システムには、CDI(キャパシタ・ディスチャージ・イグニッション)方式とポイント式という2つの主要な方式があり、それぞれ構造と点検方法が大きく異なります。現代の草刈機ではCDI方式が主流ですが、古い機種ではポイント式も使用されており、適切な診断のためには両方の特徴を理解することが重要です。
CDI方式は、コンデンサに蓄積した電気を瞬間的に放電することで高電圧を発生させる電子制御システムです。機械的な接点がないため耐久性が高く、メンテナンスが簡単である一方、電子部品の故障時は部品交換が基本となります。CDI方式のイグニッションコイルには、電子制御回路が内蔵されており、外部からの診断は限定的です。
⚙️ CDI方式と点火ポイント方式の比較
項目 | CDI方式 | ポイント式 |
---|---|---|
構造 | 電子制御・無接点 | 機械式接点・コンデンサ |
耐久性 | 高い | 接点摩耗により劣化 |
メンテナンス | 不要(故障時交換) | 定期的な調整必要 |
故障診断 | 電子回路のため困難 | 接点・コンデンサで判断可 |
修理可能性 | 部品交換のみ | 接点研磨・調整で修理可 |
コスト | 部品代高額 | 部品代安価・工賃高 |
ポイント式は、フライホイールの回転により機械的な接点を開閉することで一次電流を断続し、電磁誘導により高電圧を発生させる方式です。接点の開閉タイミング、接点間隙、コンデンサの容量など、多くの調整要素があり、適切な設定により長期間の使用が可能です。
CDI方式の点検では、電子回路の故障を外部から判断することは困難なため、他の要素(配線、隙間調整、プラグなど)を除外した後、イグニッションコイル全体の交換が基本となります。テスターによる抵抗値測定も、内蔵された電子回路により正確な値が得られない場合があります。
ポイント式の点検では、接点の状態確認が最も重要です。接点の表面に酸化皮膜やカーボンが付着していると、電流が流れず点火不良を起こします。また、接点間隙(通常0.3~0.5mm)の調整により点火タイミングが変化するため、適正値への調整が必要です。
コンデンサの容量抜けもポイント式でよく見られる故障です。コンデンサは一次電流の遮断時に発生するスパークを吸収する役割があり、劣化により容量が低下すると接点の摩耗が促進され、点火性能も低下します。テスターのコンデンサ測定機能により容量を確認できます。
実際の修理現場では、古いポイント式の草刈機をCDI方式に改造するケースも見られます。この場合、フライホイールとイグニッションコイルを同時に交換する必要がありますが、メンテナンス性とトラブル時の対応が格段に改善されます。ただし、改造費用は新品購入に近い金額になることもあるため、機械の価値との比較検討が必要です。
一次コイルと二次コイルの故障原因は経年劣化と熱による影響
イグニッションコイルの一次コイルと二次コイルに発生する故障は、主に経年劣化と熱による影響が原因となります。それぞれのコイルは異なる構造と役割を持つため、故障の進行パターンや症状の現れ方も異なり、適切な診断により具体的な故障箇所を特定することが可能です。
一次コイルの故障原因として最も多いのは、絶縁被覆の劣化による層間ショートです。一次コイルは比較的太い電線(0.3~0.6mm)を使用していますが、長期間の熱サイクルにより絶縁材料が劣化し、隣接する巻線間でショートが発生します。この故障では抵抗値が規定値より低下し、電流が過度に流れることでCDI回路に悪影響を与えます。
🔥 コイル故障原因と進行パターン
故障箇所 | 主な原因 | 進行パターン | 症状 |
---|---|---|---|
一次コイル絶縁劣化 | 熱・振動・湿気 | 徐々に抵抗値低下 | 点火タイミング不良 |
一次コイル断線 | 機械的応力・腐食 | 突然の完全断線 | 完全点火不良 |
二次コイル絶縁劣化 | 高電圧・熱・湿気 | 徐々に絶縁抵抗低下 | 火花強度低下 |
二次コイル断線 | 細線の疲労破断 | 間欠的から完全断線 | 間欠的点火不良 |
二次コイルの故障では、細い電線(0.03~0.06mm)の断線が最も頻繁に見られます。二次コイルは数万回の巻線があるため、振動や熱膨張による微細な動きが積み重なり、細い電線が疲労破断を起こします。初期段階では間欠的な断線により、エンジンの振動や温度変化により症状が現れたり消えたりします。
湿気による絶縁性能低下も重要な故障要因です。草刈機は屋外使用が基本のため、雨や夜露により水分がコイル内部に浸透し、絶縁性能が低下します。特に二次コイルは高電圧を扱うため、わずかな絶縁性能低下でも漏電やアーク放電を起こし、発生電圧が低下します。
熱による影響は、コイルの電気特性と機械的特性の両方に現れます。電気特性では、銅線の抵抗値が温度上昇により増加し、発生電圧が低下します。機械的特性では、異なる材料(銅線、絶縁材、鉄心)の熱膨張係数の違いにより内部応力が発生し、絶縁材の亀裂や剥離を引き起こします。
振動による故障は、特に取り付け部分で顕著に現れます。エンジンの振動が直接イグニッションコイルに伝わり、内部の巻線や鉄心に機械的応力が加わります。長期間の振動により、巻線の固定が緩んだり、鉄心との接触部分で摩耗が生じたりします。
予防対策として、定期的な清掃により汚れや水分を除去し、取り付けボルトの緩みを点検することが有効です。また、エンジンオイルの適切な管理により、オイル漏れによるコイル汚染を防ぐことも重要です。使用後は機械を清拭し、乾燥した場所で保管することで、湿気による劣化を最小限に抑えることができます。
プラグから火花が出ても弱い場合はコイル内部の劣化が原因
プラグから火花は出ているが明らかに弱い、またはエンジンの始動や回転が不安定という症状は、イグニッションコイル内部の部分的な劣化が原因となることが多く見られます。この状態は完全な故障に至る前段階であり、適切な診断により早期に対処することで、重大なトラブルを回避できます。
火花の強度不足は、主に二次コイルの絶縁性能低下により発生します。二次コイルは20,000~35,000Vという高電圧を発生させるため、絶縁材料にわずかな劣化があっても、内部でのリーク(漏電)により発生電圧が低下します。目視では火花が出ているように見えても、実際には圧縮された混合気を点火するのに十分な強度がない状態です。
⚡ 火花強度と点火性能の関係
火花の状態 | 電圧レベル | 点火性能 | エンジンへの影響 |
---|---|---|---|
強い青白色 | 20kV以上 | 良好 | 正常始動・安定回転 |
弱い青色 | 15~20kV | やや不良 | 始動困難・不安定回転 |
弱い赤色 | 10~15kV | 不良 | 始動不可・失火多発 |
断続的 | 不安定 | 極めて不良 | 間欠的停止 |
大気圧下と圧縮下での点火性能の違いも重要な要素です。プラグを外した状態(大気圧下)では比較的容易に火花が飛びますが、エンジン内部の圧縮された混合気中では、同じ火花でも点火に必要な電圧は約10倍になります。したがって、大気圧下で弱い火花の場合、圧縮下では点火できない可能性があります。
診断方法として、ギャップテスターを使用した火花強度の測定が有効です。ギャップテスターは、段階的にギャップ幅を広げることで、どの程度の距離まで火花が飛ぶかを測定する器具です。健全なイグニッションコイルでは、5~6mm程度のギャップでも安定した火花が得られるはずです。
コイル内部の劣化進行パターンは、一般的に段階的に進行します。初期段階では高負荷時(圧縮比が高い時、混合気が濃い時など)のみ症状が現れ、軽負荷時は正常に動作します。中期段階では、エンジンが温まった時や連続使用時に症状が顕著になります。末期段階では、常時火花が弱く、始動困難や頻繁な失火が発生します。
応急的な対処方法として、プラグギャップを規定値より狭く調整(通常0.6mmを0.4mm程度に)することで、火花の飛びやすさを改善できる場合があります。ただし、これは根本的な解決ではなく、イグニッションコイルの交換が必要な応急措置です。
実際の修理現場では、「エンジンはかかるが調子が悪い」という曖昧な症状でも、火花強度の確認により具体的な原因を特定できることが多く見られます。定期的な火花強度チェックにより、故障の前兆を早期に発見し、適切なタイミングでの部品交換により、確実で経済的な修理が可能になります。
修理か交換かの判断は症状と機械の年式で決める
イグニッションコイルに不具合が発生した場合、修理による復旧か新品交換かの判断は、症状の程度と機械の年式、今後の使用予定を総合的に考慮して決定する必要があります。適切な判断により、費用対効果の高い対処方法を選択できます。
修理が可能なケースは、主にポイント式の点火システムに限られます。ポイント式では、接点の研磨、接点間隙の調整、コンデンサの交換などにより、比較的低コストで性能を回復できます。特に接点の軽微な汚れや酸化であれば、清掃と調整だけで正常な性能を取り戻すことが可能です。
🔄 修理・交換判断基準表
機械の年式 | 故障レベル | 推奨対応 | 理由 |
---|---|---|---|
3年以内 | 軽微~中程度 | 純正品交換 | 保証期間・長期使用予定 |
3~7年 | 軽微 | 修理・社外品交換 | コストバランス重視 |
3~7年 | 重度 | 純正品交換 | 信頼性確保 |
8年以上 | 軽微 | 修理・中古品使用 | 最小限の投資 |
8年以上 | 重度 | 機械買替検討 | 総合的コスト判断 |
CDI方式の場合、電子回路の故障は基本的に修理不可能であり、部品交換が前提となります。ただし、プラグキャップやプラグコードの交換により症状が改善する場合があるため、段階的な診断により最小限の部品交換で済む可能性を探ることが重要です。
機械の年式による判断指針では、購入から3年以内の比較的新しい機械では、純正品による確実な修理を推奨します。保証期間内であれば無償修理の可能性もあり、今後の長期使用を考慮すると信頼性の高い純正品が適しています。
購入から3~7年程度の機械では、症状の程度により判断を分けることが適切です。軽微な症状であれば社外品や修理による対応、重度の症状であれば純正品交換という段階的なアプローチが効果的です。この年式の機械はまだ十分に使用価値があるため、適切な投資により長期使用が期待できます。
購入から8年以上経過した古い機械では、最小限の投資で現状維持を図るアプローチが一般的です。中古部品の使用や、可能であれば修理による対応を検討し、それでも不具合が解決しない場合は機械全体の買い替えを考慮します。
使用頻度と作業内容による補正も重要な要素です。頻繁に使用する業務用途では信頼性を重視した純正品交換、年数回の使用であれば社外品や中古品での対応という使い分けが適切です。また、重要な作業(時期限定の農作業など)では、故障リスクを避けるために確実な修理方法を選択することが重要です。
実際の判断では、修理業者との相談により、機械全体の状態、他の部品の劣化状況、部品の入手性などを総合的に評価し、最も適切な対応方法を決定することが推奨されます。
まとめ:草刈機イグニッションコイル点検方法で確実な診断を
最後に記事のポイントをまとめます。
- イグニッションコイルの点検は抵抗値測定とマグネトローターとの隙間調整が基本である
- 一次コイルの正常抵抗値は0.1~2Ω、二次コイルは5,000~15,000Ωである
- マグネトローターとの適正隙間は0.1~0.3mmでシックネスゲージで調整する
- 火花が飛ばない症状はストップスイッチから段階的にチェックして原因を特定する
- プラグキャップとプラグコードの接触不良も重要な故障原因となる
- エンジンが温まった時の再始動不良は熱膨張による接触不良が主因である
- 交換費用は純正品で8,000~15,000円、社外品で3,000~8,000円程度である
- 共立・マキタ・ゼノア各メーカー間の互換性は基本的に限定的である
- CDI方式は電子制御で修理困難、ポイント式は機械的調整で修理可能である
- 一次コイル・二次コイルの故障原因は主に経年劣化と熱による影響である
- プラグから弱い火花しか出ない場合はコイル内部の絶縁性能低下が原因である
- 修理か交換かの判断は症状の程度と機械の年式で総合的に決める
- テスターによる正確な測定には適切なレンジ設定と端子清拭が必要である
- 温度による抵抗値変化を考慮した冷間時・温間時両方での測定が有効である
- 予防保全として定期的な清掃と乾燥保管により劣化進行を抑制できる
調査にあたり一部参考にさせて頂いたサイト
- https://ononouki.com/2019/02/16/%E8%8D%89%E5%88%88%E6%A9%9F%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%AB%E4%BA%A4%E6%8F%9B/
- https://oshiete.goo.ne.jp/qa/2900170.html
- http://boondocks785.blog.fc2.com/blog-entry-61.html?sp
- https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14269056029
- https://shopping.yahoo.co.jp/search/%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%AB/75457/
- https://nautes.org/noukigu01/archives/3309
- https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10267660220
- https://keisfarm.hatenablog.com/entry/2019/12/21/173016
- https://ameblo.jp/jq1itw/entry-12362949050.html
- https://plow-power.com/repairblog/blog-3040/